近鉄30000系電車

車両について

運用事業者 近畿日本鉄道(近鉄)
製造所 近畿車両
製造年 1978年(昭和53年)~1985年(昭和60年)
製造数 60両
運用開始 1978年(昭和53年)12月30日
運用路線 難波線・奈良線・京都線・橿原線・大阪線・名古屋線・山田線・鳥羽線・志摩線
最高速度 120km/h
備考 鉄道友の会第22回(1979年)ブルーリボン賞受賞

近鉄30000系電車

クイックアクセスガイド

車両の概要

車両の性能・仕様

形式

編成

導入年次による変化

車両についての見解


車両の概要

近鉄30000系電車(きんてつ30000けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道(近鉄)が1978年から運用している特急形電車です。

1978年(昭和53年)に10100系「新ビスタカー」の老朽化・廃車に伴い、後継車両として登場しました。

日本では、新幹線100系電車登場まで唯一、鉄道車両で2階建て車両を組込んで運行していた近鉄特急「ビスタカー」の3代目にあたります(10000系初代ビスタカーが登場したのが1958年、以来、1985年に新幹線100系の2階建て車両が登場するまで、国内唯一のダブルデッカー車両を運営する鉄道会社だった)。登場時は10100系「新ビスタカー」と区別するため「ニュービスタカー」と呼ばれていましたが、「ニュー (New) 」と「新」では意味が同じでこの区別方法はおかしいため、のちに「ビスタカーIII世」と通称されるようになりました。更に後述する更新工事で「ビスタEX(ビスタ・エックス、Vista EX)」に改称されました。

伊勢志摩観光特急用としてデビューしましたが、名阪ノンストップ特急(甲特急)や、車庫のある大和西大寺からの送り込みも兼ねて阪奈、京奈特急などでも使用され、デビュー間もない頃から南大阪線系統や湯の山線を除く特急運転区間のほぼ全線で運用されました。

1988年に21000系「アーバンライナー」が登場するまでの間、近鉄を代表する車両であり、近鉄特急のCMでは12200系2両と併結した6両編成での映像が多く使われました。また、当時の国鉄監修時刻表(現在のJTB時刻表)の広告をはじめ、近鉄各駅のパンフレット置場等に当該系列のイラストやビスタカーのV字マークが使われていました。

1979年に鉄道友の会ブルーリボン賞を受賞しています。


車両の性能・仕様

車体構造

車体は先に登場した12200系と12400系を基本としました。

10100系(廃車)では連接構造を採用していましたが、この方式では車長が短くなる関係上、編成定員が12200系等のボギー構造の車両と比較して少なく、運用面で不都合が発生していました。また、メンテナンスの上でも連節心皿の保守や工場内における編成および台車の分離組立工程に手間がかかる問題もありました。これらの諸問題をクリアすることに加え、2階客室のスペースを多く確保するため、30000系ではボギー構造を採用しました。それに伴って車体長も全車20,800mmとされました。

電動車の車体は概ね前年に登場した12400系のデザインを踏襲しましたが、特急標識・前面行先表示器や尾灯・標識灯の形状は異なったものとなっています。また、貫通路上部に2本の筋が入るようになりました。この変更は12400系増備車である12410系、12600系、そして12410系の狭軌バージョンである南大阪線向け16010系に踏襲されました。運転台直後に車内販売準備室を備えるモ30200形は片側面につき客用扉が1か所、モ30250形は2か所設置となっています。

付随車の車体はダブルデッカーという特殊構造ゆえに経年使用による車体の垂下が特に心配されることから、両先頭車と同じく台枠サイドシール(側ばり)を車体全長に渡って通し、車端圧縮荷重を直線の梁で受ける構造をとりました。この台枠に吊り下げるように、船形のステンレス製台枠を別に製作のうえ取り付け、階下室としました。なお、車体の剛性改善とばね設計の見直しにより、当該系列ではレール面上最小車体高さを10100系の245mmから15mm下げて室内空間の増加を図りました。付随車の客用扉は車体の中央に1か所設けられ、扉付近は吹き抜けのエントランスホールとしています。なお、全形式とも客用扉は設計当時の近鉄特急車で標準であった2枚折戸となっています。

付随車の側窓は、座席1列ごとに設けて軽快感と客席の多さをアピールしました(現在は天井部の明かり窓と一体化した曲面ガラスに取り替え)。寸法は電動車の1,700mm×750mmに対して、階上室が840mm×750mm、階下室が930mm×575mmとなっていました。扉付近のエントランスホール部分の窓も客室窓と同一寸法としましたが、客室窓から少し離れた場所に位置し、窓内には号車表示器と座席位置案内表示板のユニットを設置しました。2階席の側窓上部には飾り小窓を設置して、車体を出来るだけ高く見せるようにしました(現在はなし)。階下部分には冷房装置の運転に必要な外気取り入れ用グリルが取り付けられていますが、寸法を極力階下室の窓に合わせ、またステンレスの地肌のまま取り付けることで窓が並んでいるようにデザインされ、2階建であることを強調しました。

車体断面形状は、電動車は12400系と同一ですが、付随車は車両限界一杯まで拡大されました。付随車の車体高さは10000系や10100系と同様で、当時の車両限界の制約を受けて4,060mmとなっていました(現在は車両限界が拡大され、4,140mmとなっている)。この付随車と電動車では特に連結面の屋根の段差が激しく、先代のビスタカーと比べて一体感ある流れとはなっていませんが、これは2階建車両であることを強調するために、塗り分けも含めてあえて一貫性を否定し、不連続性を前面に打ち出したものとなっていました(現在はT車の屋根がかさ上げされたことに伴い、編成全体の一体感を出すために大型のカバーが取り付けられた)。また、電動車と付随車では連結面の床高さが異なり、両車を見比べると付随車の床面が若干高く設定されているのが判ります。電動車の床面高さはレール面から1120mmだが、付随車はそれより50mm高くなっています。

塗装は2階建車を強調する理由から10100系のように紺色の帯を編成全体に通すことをやめ、電動車の紺色の帯を連結面手前で斜めにカットし、付随車でビスタカーのイニシャルをアレンジしたVカットライン(『近鉄特急 VISTA CAR 30000系車両』における表記から)を描くデザインとしました(現在は12410系12413FのB更新の際に塗装変更されたものに準拠したものとなり、ダブルデッカーの中間車は本系列独自の塗り分けとなっている)。また付随車の紺色の帯も電動車のそれと比べて幅を狭くしていました。付随車の紺色の帯内には「VISTA CAR」のステンレス製の切り文字が貼り付けられたほか、モ30200形の車販準備室部分にも同様の切り文字が貼り付けられました。ただし電動車の場合、文字サイズが若干小さく、貼り付け箇所は山側のみとなっていました(現在は撤去)。

主電動機・制御装置・台車・運転機器

主電動機は12200系や12400系と同じものを用いています。また、制御方式はWN駆動方式を用いた抵抗制御となっています。

台車は、シュリーレン式円筒案内式車体直結空気ばね台車となっています。

ブレーキ制御は、設計当時の近鉄で標準であった、HSC-D発電ブレーキ付き電磁直通式となっています。

車内仕様・サービス設備

2階席の居住性を重視し、10100系よりも居住空間を広く取り、天井の高さを2.18mとして乗客に窮屈な印象を与えないようにしました。その分、階下席は高さを思い切って低く抑え、通り抜けができないセミコンパーメント調としました(現在はグループ専用席となっている)。

平屋の電動車の内装は基本的に先に登場した12400系に準じており、「くつろぎのサンシャイン」というテーマを設定して、オレンジ色モケットの座席(現在は30201Fを除いて赤色)をはじめ、明るい色調を採用しました。

2階建の付随車の階上室はテーマを「さわやかな高原」として、座席モケットを緑色としました(現在は30201Fを除いて青色)。階下席は6人掛けのソファーで、配色は「海のファンタジー」をテーマとして青色としました(現在は5人掛け)。階下席には当時禁煙車に指定されていなかった関係で窓際のテーブルに灰皿が設置されました(現在は撤去)。また、階下席では壁に横長の鏡を設置して部屋の圧迫感を和らげています。この部屋の蛍光灯カバーは角を丸め、乗客が頭を打ってけがをしないように配慮しました。床材も12400系同様で通路方向に3本のストライプが入っています。ただし階下席とエントランスは小石柄のアームストロング材を使用しています。また、客用扉を車両中央に設けたために客室が前後に分かれていますが、仕切り壁と扉をガラス張りにして見通しを良くし、全体があたかも一つの部屋に見えるようにしました。このガラス扉にはセラミック加工の横縞模様が入っています。荷物棚も透明ガラス製を採用することにより、客室の開放感演出に一役買っています。その一方で、両先頭車に連絡する連結面側の仕切扉は緑色の目隠し式で窓がないものとなっています。階上室の扉は屋根の半径がきつい関係で両開き式となっています。

デッキの乗降扉の色はMc車がオレンジ、T車が緑として、客席の雰囲気に合わせています。扉は2枚折戸で内側に開くために、可動部の床の色を変えている点は在来車と同様のものとなっています。妻壁には階下席を除き、「奈良大和路」「伊勢志摩」のイラストが入っていました(現在は表記なし)。

客室カーテンの模様も12400系を踏襲してロイヤルラインとされましたが、階上、階下席ではベースカラーが異なっています。カーテンタッセルは本系列よりU字状のアルミ鋳物形状となり、溝へカーテンを挟み込む方式に変更されました(階下席は従来通り帯で束ねる、現在はその他の席にも留め具が設置されている)。窓柱部分には当時の近鉄特急車内でお馴染みであった飾り造花が4窓おきに据え付けられました。そのほかに、T車エントランスの窓にも飾り造花が据え付けられました。

車内の号車表記はMc車が従来通りの札差し込み式、T車は新採用の反転式翼式表示器を使用しましたが、これは本系列以外に普及しませんでした(現在はいずれも3色LED式となっている)。エントランスには乗客が4室に分かれた客室を探す際に迷わないために、ドア上部に座席案内板を表示しています。

座席構造は階下席を除いて偏心回転式簡易リクライニングシートを採用しました(現在は22600系に準じたゆりかご型座席となっている)。ただし、階下席は天井の圧迫感を与えないよう天井高さを上げているため、この部分の2階客室は床が1段高くなり、ここに位置する座席は回転できないようになっていました。さらに階上席の連結面側の客室末端4座席、およびモ30200形のトイレ寄りの客室末端4座席も回転不可となっていました(30214F・30215Fのモ30200形の連結面寄りの座席は回転可能)。したがって編成あたりでは階下席を除いた回転不可の座席は36席存在していました(現在はすべての席が回転可能)。進行方向によっては見知らぬ人同士が向かい合うことになり、乗客のニーズとミスマッチする一面もありました。座席ピッチは980mmとなっています(現在は階上席は1,000mmとなっている)。ただし、階上席のエントランス側の客室末端8座席の間隔は1,030mmと若干広くなっていした。階下室のソファは座面高さを低くすることで、1,650mmの天井の低さを実感させないように配慮されました。

トイレは、両Mc車連結面側に和式1か所(現在は洋式)と独立した洗面所が設けられています。洗面室は3面鏡の両サイドの鏡に蛍光灯が埋め込まれました。給水方式は足元ペダルを踏むと蛇口から水が流れ出る当時の標準的なタイプでありました。床はモザイクタイル張りとしました。床下は機器で余裕がないため、水タンクは床上設置としています。処理は貯蔵タンク式となっています。

照明は、T車の入り口天井照明には奈良・春日大社の灯籠からイメージを得た模様を入れています。また、T車2階客席の荷物棚に繋がる蛍光灯カバーは和紙調にデザインされました。この蛍光灯カバーからは、蛍光灯の光に加え、天井の飾り小窓から取り入れた自然光を合わせた二重の光が放たれます。夜間になると、この蛍光灯から発する光で飾り小窓が淡く発光します。天井照明は荷物棚の奥に蛍光灯を設けてドーム状の天井を照らす間接照明としました。Mc車は12400系と同様の照明となっています。

車内販売準備室は、モ30200形の運転台の直後に設けられました。給湯設備がある点や基本的な構造は12400系と同様となっています。当系列は階段があるために車内販売はワゴンを使用せず、籠に商品を入れて客室を巡回していました(現在はこの車両では行われていない)。


形式

30000系は以下の4形式から構成されています。

サ30100形

付随車(T1)です。2階建で、電動空気圧縮機が搭載されています。

サ30150形

付随車(T2)です。2階建で、補助電源装置が搭載されています。

モ30200形

上り方(大阪難波・大阪上本町・京都方)の制御電動車(Mc1)です。平屋で、車内販売準備室とトイレと洗面室が搭載されています。

モ30250形

下り方(近鉄奈良・橿原神宮前・近鉄名古屋方)の制御電動車(Mc2)です。平屋で、トイレと洗面室が搭載されています。


編成

30000系の編成は4両の1種類が存在しています。

4両

モ30200サ30100サ30150モ30250


導入年次による変化

1979年7月製造(30000系2次車)

4両編成6本が増備されました。基本仕様は1次車と同様のものとなっています。

1980年7月製造(30000系3次車)

4両編成1本が増備されました。Mc車の屋根上に連続形の歩み板が海側に設けられました。また、母線および母線過電流継電器が設置されました。さらに2次車までは回転できなかったモ30200形の連結面寄りの客室末端4座席が回転可能となりました。

1985年3月製造(30000系4次車)

4両編成1本が増備されました。モ30215は当初から車内販売準備室とトイレ部の白窓(すりガラス)が省略されました。またこの頃、線路設備等の改良により車両限界が拡大されたことによって、中間T車は天井の中央部に冷房ダクトを2本追加して屋根に段が付き、車体高さを4,140mmに引き上げました(のちのビスタEXと同じ高さ)。また、乗務員室の環境を改善するために前後スペースを拡大しました。このために乗務員室扉が客室側に60mm移動しました。階下席では奥行きが100mm拡大され、2,070mmとなりました。座席のリクライニング機構は2段階式から無段階式フリーストップタイプに改められました。客室妻壁の伊勢志摩・奈良大和路のイラストは省略されました。


車両についての見解

現在、準備中。