JR東海キハ85系気動車
運用事業者 | 東海旅客鉄道(JR東海) |
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製造所 |
日本車両製造 新潟鐵工所 (該当事業は現在の新潟トランシス) 富士重工業(現在のSUBARU) |
製造年 |
1989年(平成元年)~1992年(平成4年) 1997年(平成9年・代替新造) |
製造数 | 80両+1両(代替車) |
運用開始 | 1989年(平成元年)2月18日 |
運用終了 | 2023年(令和5年)6月30日 |
運用路線(廃車直前時点) | 関西本線(名古屋~河原田)・紀勢本線(津~紀伊勝浦)・伊勢鉄道伊勢線 |
最高速度 | 120km/h |
備考 | 1989年度グッドデザイン商品(現在のグッドデザイン賞)選定 |
クイックアクセスガイド
キハ85系気動車(キハ85けいきどうしゃ)は、東海旅客鉄道(JR東海)の特急形気動車です。会社発足後の新形式第1号であり、またJR東海が運行する特急列車に掲げる「ワイドビュー」を最初に冠した車両でもあります。
国鉄分割民営化により発足したJR東海は、国鉄から引き継いだキハ82系気動車(廃車)を、名古屋から飛騨・南紀方面の非電化線区の特急列車に運用していましたが、老朽化が進んでいました。そこで、キハ82系の置き換えおよび所要時間短縮{本系列の投入と並行して軌道強化や両開き分岐器(Y字ポイント)の高速通過(110 km/h)対応など、地上設備の改良工事も実施された}のために開発されたのが本形式で、1989年から製造されました。1989年2月から高山本線の特急「ひだ」に使用され、1992年からは紀勢本線の特急「南紀」にも使用されています。
1989年の通商産業省グッドデザイン商品(現在の日本産業デザイン振興会グッドデザイン賞)に選定され、1990年にはブルーリボン賞を東日本旅客鉄道(JR東日本)651系電車と争っていましたが、次点となりました。外観デザインには手銭正道、戸谷毅史、木村一男、松本哲夫、福田哲夫が携わりました。本系列における意匠をはじめとする基本構成は、以降のJR東海で新製される在来線用車両の多くに基本仕様として踏襲されています。
本系列で運用される特急列車の名称には、頭に「ワイドビュー」が冠されています。これは1738通の一般応募をもとに決定しました。この「ワイドビュー」は、その後新型特急電車が投入された「しなの」や「伊那路」、「ふじかわ」にも冠されるようになりました。
車体構造
車体は車両軽量化とメンテナンスフリーのために、ステンレス鋼を用いた軽量構体を採用しています。連続窓が採用され、車端部を除いて固定式です。低床構造とされたため扉付近には段差(ステップ)が存在していません。
観光路線である高山本線や紀勢本線への投入が前提であったことから、眺望性の確保について様々な配慮がなされています。非貫通型先頭車は傾斜を付けた流線形とし、三次曲面のフロントガラスと運転台上方の天窓(サンルーフ)を採用し、運転席後部を全面ガラス張りとしたうえで前面展望を確保しています。貫通型先頭車についてはやや緩い傾斜となっていますが、両端の前面窓は側面に回り込む大型のパノラミック・ウィンドウとし、他の車両と連結する際には特殊な形状をした幌を装着しています。デザインテーマは「自然界と調和する『あたたかさ』と、未来を想像させる『宇宙感覚』」というものでしたが、JR東海の車両部車両課担当課長である森加久見によれば「高山地区だと栗、南紀方面だと二枚貝とか、曲面になった特産物をデザイン化して先頭の形状が決まった」と後年インタビューで述べています。
エンジン・制御装置・台車
本系列の最大の特徴は、日本製の国内向け旅客車両としては数十年ぶりに輸入ディーゼルエンジンが搭載されたことにあります(ディーゼル機関車においては、1982年に大井川鐵道DD20形で採用例がある)。日本国外の設計によるエンジンは、1950年代にディーゼル機関車用のエンジンが日本でライセンス生産された例がありますが、気動車用としては戦後例のない試みでした。これは、所要時間を短縮するために時速120kmで走行でき、起動加速度を増やすためには、小型で高出力のエンジンが望まれ、国内も海外も調べた結果、要望に合致した性能を有していたのが海外製だったことにあります。
そのエンジンはカミンズ社イギリス工場製のものを各車両に2基ずつ搭載し、変速機は新潟コンバータ(現在の日立ニコトランスミッション)製のC-DW14Aでトルクコンバータを用いる変速段が1段に加え、直結段が2段となっています。これによって、著しい速度向上を成し遂げ、「電車に匹敵する性能の気動車」と評されました。
台車はヨーダンパ付ボルスタレス式となっています。これは国鉄時代のキハ185系の台車をベースに、車体をつなげる牽引装置を振動が少ないものに改良したものです。
ブレーキ制御は電気指令式で、その他機関ブレーキとコンバータブレーキも装備しています。これは気動車として初めて電気指令式ブレーキが採用された事例となっています。
車内仕様・サービス設備
側窓からの展望のために、通路と座席の間に20cmの段差を設け、窓の縦寸法は95cmに拡大されました。一部の車両ではバリアフリー対応として段差をなくし、車両番号を1100番台または1200番台として区別しています。普通車の座席の前後間隔(シートピッチ)はキハ80系の91cmから100cmに拡大しました。
先頭車前面には列車愛称幕が設置され、非貫通型はフロントガラス下部の運転席側(正面から見て右側)に横寸法の長い長方形状のもの、貫通型は貫通扉の窓下に正方形に近い長方形状となっています。また、側面の種別・行先表示器と号車番号表示器は字幕式で上下別(キハ84-300のみ左右別)に配置していますが、号車番号表示器をLED式とした車両(初期車)も存在しています。
冷房装置は駆動機関直結式で、従来の特急形気動車のように編成中の特定車両に搭載されたディーゼル発電機から冷房装置への電力を供給する方式と異なり、編成構成の自由度が向上しています。
グリーン車は2種類あり、一つは「ひだ」用に製造された中間車に組み込まれた、普通車合造の半室グリーン車(キロハ)であり、横4列配置でシートピッチを116cmとし、定員確保がなされています。もう一つは「南紀」用の先頭車として製造された全室グリーン車(キロ)で、こちらはある程度定員がとれることから横3列配置でシートピッチを125cmとしています。最終的に「キロハ」車両は「ひだ」号の定期運用時に連結され、「キロ」車両は「ひだ」編成10xxD列車(富山発着編成)の定期運用に使用されていました。
キハ85系は以下の4形式から構成されており、番台区分によって機器・車内構成が異なっています。
キハ85形
運転台がついた普通車で、番台によって先頭の形状や車内の設備が異なっています。
キハ84形
中間車の普通車で、番台によって車内の設備が異なっています。
キロハ84形
中間車のグリーン・普通合造車です。定員確保のためグリーン座席は2+2配置となっており、シートピッチは116cmで、車掌室やトイレを備える。のちに「南紀」にも使用されていました。
キロ85形
運転台がついたグリーン車です。「南紀」用に製造され、先頭の形状は非貫通となっています。キロハ84よりもシートピッチをさらに広げ125cmとなり、座席も2+1配置となったため、車内はゆったりとしています。洋式トイレ・男子小用トイレ・業務用多目的室・公衆電話も備えています。のちに「ひだ」に転用しました。
キハ85形
番台\設備 | 先頭の形状 | 車椅子対応 | トイレ | 定員 |
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0番台 | 非貫通 | × | × | 60 |
200番台 | 貫通 | × | ○ (和式・男子用小便器) | 56 |
1100番台 | 貫通 | ○ | ○ (洋式) | 50 |
1200番台 | 貫通 | ○ | ○ (洋式・男子用小便器) | 50 |
キハ84形
番台\設備 | 車内販売準備室 | 車椅子対応 | トイレ | 方向幕の配置 | 定員 |
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0番台 | ○ | × | × | 上下 | 68 |
200番台 | ○ | ○ | × | 上下 | 64 |
300番台 | × | × | × | 左右 | 72 |
キハ85系の編成は4両(半室グリーン車付き)・4両・3両(グリーン車付き)・3両・2両の5種類が存在しています(定期運用の場合)。
4両(半室グリーン車付き)
キハ85 キハ85-200 キハ85-1200 | キロハ84 | キハ84 | キハ85-1100 |
普通車 | グリーン車 普通車 | 普通車 | 普通車 |
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4両
キハ85 | キハ84 | キハ84 | キハ85-1100 |
普通車 | 普通車 | 普通車 | 普通車 |
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3両(グリーン車付き)
キハ85-1100 | キハ84-300 | キロ85 | |
普通車 | 普通車 | グリーン車 |
3両
キハ85 | キハ84 | キハ85-1100 | |
普通車 | 普通車 | 普通車 |
2両
キハ85 | キハ85-1100 | ||
普通車 | 普通車 |
現在、準備中。