JR西日本・JR東海285系電車
運用事業者 |
西日本旅客鉄道(JR西日本) 東海旅客鉄道(JR東海) |
---|---|
製造所 |
近畿車輛 川崎重工業(JR西日本車のみ) 日本車両製造(JR東海車のみ) |
製造年 | 1998年(平成10年) |
製造数 | 35両 |
運用開始 | 1998年(平成10年)7月10日 |
運用路線 (JR東海として) |
東海道本線 |
最高速度 (JR東海として) |
120km/h |
備考 |
寝台特急用車両 1998年度グッドデザイン賞受賞 1998年度ブルネル賞奨励賞受賞 鉄道友の会第42回(1999年)ブルーリボン賞受賞 |
クイックアクセスガイド
285系電車(285けいでんしゃ)は、西日本旅客鉄道(JR西日本)および東海旅客鉄道(JR東海)の直流特急形寝台電車です。
旧来から、寝台列車に使用される車両は、機関車が牽引する客車タイプ(いわゆる「ブルートレイン」)が主流で、電車タイプの車両としては日本国有鉄道(国鉄)が1967年から1972年にかけて製造した581系・583系が唯一のものとなっていました。この車両は高度経済成長に伴う輸送需要増加に合理的に対応する観点から、夜間は寝台車、昼間は座席車として昼夜を問わず運用できる車両として開発・導入されましたが、寝台・座席の転換作業の煩雑さや、座席車としての居住性の低さ、電車のため非電化区間へは入線できないことなどのデメリットも多く(ほかにも、客車のような1両単位での増車・減車にも向かなかった)、スタンダードとはなりませんでした。
その後も寝台列車の車両は客車が主流となっていましたが、日本の線形では運転性能が電車や気動車に劣るため所要時間の短縮が困難であるほか、1970年代以降は長距離利用客の多くが新幹線や航空機へ移行したため、観光客需要へ特化し個室寝台や食堂車などの付加価値を高めた「北斗星」「トワイライトエクスプレス」といった一部の列車以外は、285系電車の構想当時となる1990年代における利用は衰退の一途を辿っていきました。
しかし、本来寝台列車は高い客単価が望める商品であり、現代のニーズに合ったサービスを提供することで、ビジネス客も含めた需要の取り込みが可能と考えられる列車については、個室寝台主体の新型車両を投入し、強化していく方向性が見いだされました。
具体的な列車として、平均乗車率が比較的高く、走行距離・所要時間等の観点からも航空機等の競合交通機関に対抗可能と見込まれた「瀬戸」(東京駅~高松駅)と「出雲2・3号」(東京駅~出雲市駅、なお、本系列車両登場時点で「出雲」はJR東日本所有車両で運行されていた1・4号も運行されていた。編成構成・仕様が大幅に異なる)の2列車が対象として選ばれました。1996年末に本形式の開発が決定され、1997年6月20日にJR西日本・JR東海両社から共同プレスリリースが出されました。
開発に際しては、「瀬戸」「出雲」の客車を保有するJR西日本の主導で行われましたが、JR東海についても自社線内を通過する高単価客増加による収益増が期待できること、電車化に伴い自社管内で運行する客車列車を減らせること(電車と電気機関車とでは動力車操縦者免許は同一だが、運転操縦方法が異なるため別個の社内養成が必要となる)等のメリットがあることから、両社による共同開発・共同保有の体制が取られました。製造は川崎重工業・近畿車輛・日本車輌製造が受注し、基本設計は剣持勇デザイン研究所、内装設計はミサワホームが参画しました。
「サンライズエクスプレス」の愛称が「さわやかな朝、新しい一日のはじまり」というイメージで命名され、夜をイメージした従前のブルートレインとは一線を画する明るい外観デザインとなりました。
1998年(平成10年)にグッドデザイン金賞、ブルネル奨励賞を受賞、1999年(平成11年)に第42回鉄道友の会ブルーリボン賞をそれぞれ受賞しています。
営業最高速度は130 km/hで(東海道本線米原~神戸間、山陽本線)、寝台列車としては導入時より狭軌鉄道最速となっていました。なお、速度種別はA5(10パーミル均衡速度105 km/h)となっています。
車体構造
車体長は21,240/20,800mm(先頭車/中間車)で、全長は21,670/21,300mm(先頭車/中間車)で、車体幅は2,935mmと21m級車体の鋼製です。一般的に鉄道車両の製造は、車体→艤装の順序で行われますが、個室寝台主体の本系列では仕切り壁が多く一般的な順序を採用した場合は工期および製造コストの増大が予想されたため、機器や配線などを予め車外でモジュール化しておき、個室を組み上げるパネル工法が採用されました。この工法では、高精度のパネルを効率的に生産して供給できることと、従来の鉄道車両には無かった温もりのある空間デザインを演出する高品質な素材を求めた結果、ミサワホームの内装材「M-Wood(エムウッド)」が多用されています。これは木材と樹脂との複合素材で、水や汚れに強く、車両の不燃性基準も満たしています。
個室寝台を主体としつつ一定の定員を確保するため2階建構造を基本としますが、3・5・10・12号車は主電動機、車両制御装置などの電装品を床下に搭載する電動車であることから、通常の平屋構造となっています。
主電動機・制御装置・台車・運転機器
主電動機はかご形三相誘導電動機WMT102A形(1時間定格出力220 kW)を搭載しています。また、制御装置はVVVFインバータ方式のIGBT素子で、JR西日本の車両としては初めてベクトル制御を採用し、粘着の向上による力行時の空転・滑走防止を図っています。
台車は、223系1000番台をベースにしたヨーダンパ付きボルスタレス台車で、電動台車がWDT58、付随台車がWTR242となっています。
行先表示機は字幕式のものが各車両の片側に1か所(1両に左右計2か所)設置されています。警笛は、空気笛に加え、ミュージックホーンを備えています。JR東海の保有する鉄道車両でミュージックホーン、電気笛を搭載しているのは、JR西日本と同一仕様で製作されたこの285系のみとなっています(自社オリジナル車両はタイフォン、ホイッスルのみ搭載)。
ブレーキ制御は電気指令式で、回生ブレーキ・抑速ブレーキを装備するほか、列車本数の少ない区間で回生失効の発生を防ぐため発電ブレーキも併設しています。基礎ブレーキ装置は踏面片押し式のほか、付随台車ではディスクブレーキを併設しています。
車内仕様・サービス設備
航空機や高速バスなどの競合交通機関と差別化を図り、魅力ある移動環境を提供するため「快適な乗り心地」と「個室化によるプライバシー」を重視しました。本系列はそれを実現するために編成中の多くの車両を2階建車両とすることにより、頭上スペースを十分に確保した個室寝台を中心に構成しました。設備を寝台・座席兼用として昼夜兼行の効率的な運用を狙った581系・583系(廃車)に対し、本系列はあくまで寝台専用の設計であることが最大の特徴となっています。
この結果、寝台の大半をB寝台個室「シングル」が占めています。客室は1~2人用の個室寝台を中心とした5タイプに分類され、個室については各扉に設けられた暗証番号テンキーによって乗客自身が施錠することができるようになっています。このほか、座席指定券で乗車できる「ノビノビ座席」も用意されています。
設備内容 | 説明 |
---|---|
A寝台1名用個室 (シングルデラックス) |
・4号車と11号車の2階部分にそれぞれ6室(うち禁煙室3室)あります。 ・2階建でかつ通路を除く車体幅全てを使用するという空間的余裕を生かし、日本の個室寝台車では稀な大型デスク、洗面台を備えており、レール方向に配置されたシングルベッドの幅(850mm)も最大級となっています。 ・シャワーは同じ車両内にシングルデラックス利用客専用のシャワールームがあり、無料で使用できます。車内改札の際に車掌から渡される利用カードを挿入して使用します。なお、3号車・10号車にある全乗客共通のシャワールームも利用可能となっています。また、専用のアメニティグッズも用意されているなど、ビジネスホテルに迫る設備と広い室内空間を確保しながら、寝台料金は13,980円に設定されています。 |
B寝台2名用個室 (サンライズツイン) |
・4号車と11号車の1階部分にそれぞれ4室(うち禁煙室2室)あります。 ・前述のシングルデラックス下段階にほぼ同じ広さの空間にツインベッドを備えています。ベッドがレール方向に設置されているのが独特なものとなっています。 ・2階建構造の車両であるためベッド部も天井の高さは変わらず、広々としており圧迫感がありません。1室の寝台料金は15,400円となっています。 |
B寝台1名用個室 (シングルツイン) |
・1・2・6・7号車の車端部に合計8室、8・9・13・14号車の車端部に合計8室と、全体で16室があります(このうち、2・9号車の1室は車椅子対応となっている)。 ・シングルベッドが上下段に配置された2段ベッド構造となっており、購入時に1名利用か2名利用かを同時に指定するようになっています。1名用としても2名用としても使用可能なことから、「シングルツイン」という名称が付けられています。また、下段ベッドの中央部が外せるようになっており、折り畳み式のテーブルを挟んだ2名分の座席としても使用できるようになっています。さらに、2階部分にも窓が設置されており開放感を持ったものとなっています。1室の寝台料金は1名利用のときは9,600円、2名利用のときは15,100円となっています。 |
B寝台1名用個室 (シングル) |
・1・2・6・7号車に合計80室、8・9・13・14号車に合計80室と、全体で160室があります。本列車で最も室数が多いスタンダードタイプの個室となっています。 ・従来の開放式A寝台とほぼ同じ占有面積と広い頭上空間を備えた個室で、寝台料金は7,700円と後述するB個室「ソロ」よりも1,100円高額ですが、かつて存在した開放式A寝台と比べると2~3割ほど安価な料金設定となっています。ただし、床面積は開放式A寝台と同等ではあるものの、室内に靴を脱ぐためのスペースがあり、寝台幅自体は従来のB寝台と同じ最大700mmとなっています。 ・ベッドは窓と平行に設置されており、個室入口側を足元にして寝るものとなっています。個室入口近くの壁には細長いテーブルがあるほか、縦長の鏡が設置され、姿見として利用できるようになっています。 ・2階建構造のため個室内は完全に直立できるだけの高さがありますが、テーブルの幅は概ね10cm程度と細く、ほかには寝台横に細幅の台があるのみで荷物棚の類が存在していません。その一方で、床が露出しているのは靴を脱ぐためのスペースだけであるため、旅行などで大きめの荷物を持ち込む際には注意が必要となっています。なお、客室は上段・下段・平屋室があり、天井高や寝台横の台などの寸法が若干違っていますが、ベッドの大きさは全て同じとなっています。 |
B寝台1名用個室 (ソロ) |
・3号車と10号車に20部屋ずつあり、かつて存在した開放式B寝台料金と同等の額(6,600円)で利用できるようになっています。 ・3号車と10号車は電動車であり、モーターなどの電装品を床下に搭載する必要があることから、2階建ではなく通常の平屋構造とされました。このため、平屋に上下段個室が2段に配置されており、通路は上段室・下段室共に同一階の車両中央にあります。下段室へは平行移動のみで入れますが、上段室へは個室内に3段の階段があります。個室内で直立できる場所は、上段室では入口の階段部、下段室では同じく入口部分の僅かなスペースのみとなっています。個室の奥側が上段室は下段室の直立スペース、下段室は上段室の階段スペースが干渉して狭くなっているため、シングルと異なり、ベッド幅が広い個室入口側のほうを頭にして寝るものとなっています。 ・上段室は下段室の直立スペースの真上に荷物置き場がありますが、高さが低いので大きめの荷物は収納できないことがあります。一方、下段室は荷物棚の類がまったくなく、床が露出しているのは靴を脱ぐためのスペースだけであるため、大きめの荷物を持ち込む際には注意が必要となっています。なお、どちらも窓の下に細いテーブル状の台があります。 |
寝台車共通設備 |
・個別空調、照明スイッチ、時計(アラーム機能付)、コンセント、BGM放送装置(NHK-FM放送を聴取可能。「ソロ」を除きスピーカー付)、非常通報ボタン ・コップ、ハンガー、スリッパ(ソロを除く) ・枕、シーツ、掛け布団、浴衣 |
普通車 (ノビノビ座席) |
・5号車と12号車に28席ずつ存在する開放型寝台に似た普通車座席指定席で、指定席特急料金のみで利用でき、寝台料金は不要となっています。 ・二段構造のカーペット敷きとなっており、頭が来る部分の左右に隣と仕切る壁に読書灯が設置されており、1名当たり1畳分程度のスペースで区分されています。通路との間にカーテンがありますが、隣の区画と仕切るカーテンはありません。横になった際に頭が来る部分の天井に空調の吹出口があり、風量は個別に変えられるようになっています。 ・掛布団が備え付けられているのみで、枕やシーツの類はありません。 |
全体共通・その他設備 |
シャワー室:3・4・10・11号車に1か所ずつあり(内、4号車と11号車は「シングルデラックス」利用者専用)、脱衣室とシャワー室・機械室で構成されています。脱衣室内の操作盤に車内で購入したシャワーカードを挿入することで利用できるようになっています。設備自体はいずれも共通で、1回の利用で最大6分間の出湯が可能となっています。シャワー室内にはボディソープとリンスインシャンプーが備え付けられていますが、タオルは備え付けられておらず車内販売もありませんので、タオルに関しては乗車時に持参する必要があります(「シングルデラックス」利用客に限っては個室内に備え付けのアメニティグッズにハンドタオルが含まれている)。脱衣室にはドライヤーが設置されているほか、次の利用客へ配慮として利用後に操作盤の「シャワールーム洗浄ボタン」を押すことでシャワー室内に残った水分を高圧空気で除去する装置も設けられています。 洗面所・トイレ:すべての号車に設置されています。 ミニラウンジ:3号車と10号車に1か所ずつあり、海側と山側に向いた固定された8つの座席が設けられています。 飲料自動販売機:3・5・10・12号車に1台ずつ設置されています。 シャワーカード自動販売機:3号車と10号車に1台ずつ設置されています。 |
285系は以下の4形式から構成されており、JR西日本の所有車両は0番台、JR東海の所有車両は3000番台を称しています(それぞれ車両番号の書体に違いがあり、JR西日本所有車はゴナまたは新ゴに対し、JR東海所有車は国鉄時代からのスミ丸ゴシックとなっている)。各形式とも番台区分により機器・車内構成が異なっています。
クハネ285形
制御車(Tc)です。「シングル」19室、「シングルツイン」1室、運転台(車両番号奇数は東京向き、偶数は高松・出雲市向き)などを備えています。
サハネ285形
中間付随車(T)です。「シングル」20室、「シングルツイン」3室などを備えています。
モハネ285形
中間電動車(M)です。自動販売機・業務用室・集電装置・補助電源装置・空気圧縮機などを備えています。番台による違いとして、0番台(3000番台)では「ソロ」20室のほか、シャワー室やラウンジを備えているのに対し、+200した番台では「ノビノビ座席」28席、「シングル」2室を備えています。
サロハネ285形
中間付随車(T)です。「サンライズツイン」4室、「シングルデラックス」6室のほか、シャワー室などを備えています。
285系の編成は7両の1種類が存在しています。
7両(JR東海所属車は+3000)
クハネ285-0 | サハネ285-200 | モハネ285-0 | サロハネ285-0 |
B1(S・ST) | B1(S・ST) | B1(ソロ) | A1・B2 |
---|---|---|---|
モハネ285-200 | サハネ285-0 | クハネ285-0 | |
B1(S) 普通車 | B1(S・ST) | B1(S・ST) |
※普通車はノビノビ座席、(S)はシングル、(ST)はシングルツイン、(B2)はサンライズツイン。
現在、準備中。